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左脚だけむくむのは病気ですか 蒸し暑くなってきました。気温の上昇に比例して増えるのが脚のむくみに関する相談です。その中で特に多いのが 「片脚だけむくむ場合は精密検査を受けた方がいいんですか」 というものです。 インターネットで検索したら 「片脚だけむくむのは腫瘍が原因」 とか 「骨盤がゆがんでいるから」 と書いてあった、あれを見たら心配になっちゃって、と言って受診する人も少なくありません。 むくみ、正式には浮腫(ふしゅ)は脚から心臓に戻る静脈血の流れが悪くなって、血液に含まれる水分だけが血管の外の皮下組織に過剰にたまった状態を言います。 脚の静脈には筋肉の中を走る深部静脈と、皮膚のすぐ下を走る表在静脈があり、そのどちらの流れが悪くなっても脚にむくみが現れます。そして症状がさらに悪化すると表在静脈では 「下肢静脈瘤」 、深部静脈なら「深部静脈血栓症」 という病気が起こります。 下肢静脈瘤については下の関連コラムをご覧いただくとして、もう一つの深部静脈血栓症はエコノミークラス症候群という呼び名の方が有名でしょう。 静脈の流れが滞った結果、血管の中に血の塊ができて静脈内で詰まる病気で、血の塊が流されていって肺の細い血管で詰まると呼吸困難が起き、重症の場合はショック状態に陥ります。災害時に避難生活を余儀なくされた人にも発症して問題になりました。 実は日常的によくあるむくみも、下肢静脈瘤や深部静脈血栓症も左脚に起きやすいのです。その理由は脚から腰にかけて上向きに流れている総腸骨静脈という太い静脈に関係があります。総腸骨静脈には右総腸骨静脈と左総腸骨静脈の二本があり、それぞれが右脚と左脚の静脈血を心臓に運ぶための通り道になっています。 この二本の静脈、正常な人でも左右対称になっていません。骨盤の中で右総腸骨動脈が左総腸骨静脈を圧迫する形になっています。そのため、もともと左脚は血流がよくないのでむくみやすく、下肢静脈瘤や深部静脈血栓症も左側に多く発生します。 ただ実際には、これ以外にも座り方や歩き方の癖を含めた生活習慣、利き足かどうか、靴や肌着の影響など、さまざまな要因が静脈の流れ方に影響を及ぼすため、逆に右脚だけがむくむ人もいます。 さて、脚のむくみや下半身の冷えの原因で見逃しやすいのが下着による締めつけです。むくみや冷えを訴えて受診する人のうち、かなりの人が重ね着しています。本人によると冷えを防ぐためとのことですが、血液の流れが悪くなるのでこれでは逆効果です。シルエットを整えるためのガードルや補正下着も同じです。 私の印象だと女性の約80%は下着のサイズが合っていません。どんなに高価な下着でも個々人の体型にぴったり合っていなければ効果はゼロどころか、さまざまなトラブルを招きます。 下着を買う時は面倒でも試着室で専門知識を持った販売員にサイズを正確に測ってもらってから購入してください。おそらくご自分で思っているサイズとはだいぶ違うはずです。 |
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