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ブドウ糖はぶどうに入っているのですか 糖尿病では、血液中のブドウ糖が増加するため、尿にブドウ糖が出ます。古代ギリシャ人は糖尿病患者の尿をなめて、甘いことに気がつきました。糖尿病の学名 Diabetes Mellitusは、蜜のように甘い尿が大量に出る、という意味です。 実際には、ブドウ糖の甘さは砂糖の70%で、「さわやかな甘み」と表現されますから、蜜というのは大げさですが、古代人にとっては驚異だったのでしょう。尿が甘くなることから、糖尿病の予防や治療のためには砂糖を控えた方がいい、という発想が生まれたのは当然かもしれません。 (古代ギリシャの医師ヒポクラテス) しかし、ことはそう単純ではありません。日本でも糖尿病患者さんが増えていますが、砂糖の摂取量は、1970年以降、減少の一途をたどっています。同じく糖を含む炭水化物の摂取も同様です。糖を摂取するから糖尿病になるわけではないのです。 それでも、実際に糖尿病になると、血液中に溜まったブドウ糖が全身の血管を傷つけ、失明につながる網膜症や、人工透析の原因になる腎不全などの恐ろしい合併症を引き起こします。 ブドウ糖は生命活動に不可欠な、人間にとって一番大切な栄養素です。そのブドウ糖が体を傷つけるのですから、糖尿病はとても皮肉な病気で、このことが糖尿病の治療の難しさにつながっています。 さて糖尿病と炭水化物の関係については、下の関連記事 「日本人の糖尿病は違います」 を見ていただくとして、この記事では、ブドウ糖そのものに目を向けましょう。 そもそもブドウ糖とは不思議な名前ですね。一般英語でもグレープシュガー(grape sugar)といいます。果物のぶどうに多く含まれているから、こう命名された、という説があるように、果物 1グラムあたりで調べると、リンゴやバナナと比べて、ぶどうに含まれるブドウ糖は倍くらい多く、巨峰ぶどう1房に約 34グラムも入っています。 別の説として、ブドウ糖の化学的な構造の模式図が、ぶどうの房の形に似ているから、と主張する人もいますが、これはご愛嬌。正解は、ぶどうを使って糖の研究をしていた科学者が、初めて糖を取り出すことに成功し、それをブドウ糖と名づけたからです。 果物には、ブドウ糖の他に、果糖、そしてブドウ糖と果糖が1分子ずつ結びついてできたショ糖が含まれており、甘さはこの 3つの総和で決まります。この中では果糖が一番甘く、砂糖の約 1.3倍です。果糖は冷やすと性質が変わって甘味が増すという特性があるので、比較的果糖を多く含むリンゴやぶどうは冷やした方がおいしくいただけます。 ショ糖は砂糖の正式名で、漢字では蔗糖と書き、甘蔗=さとうきびに由来します。ぶどうはブドウ糖と果糖の含有量が多いのですが、バナナには大量にショ糖が含まれているため、総合的な甘さではバナナにかないません。 なお、甘さに違いはあっても、これら 3種類の糖の 1グラムあたりのカロリーは全く同じです。 ブドウ糖に比べると果糖は食べた後で血糖値が上がりにくいので、糖尿病の人でも体に負担がかからないと言われますが、その反面、果糖は体内で中性脂肪に変わり、太りやすいという欠点があります。これも詳しくは下の関連記事 「痩せたいなら夜の果物は絶対禁!」 をご覧ください。 |
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