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妊婦さんの肌が一番きれい? 古い俗謡、川柳などに登場する言い回しに、「色は孕み女に止(とど)めさす」 があります。色っぽい女性は多いけれど、妊婦さんの色香が一番という意味です。 現代の感覚でいうと、ちょっと失礼な感じがしますが、新しい生命を育んでいる神秘性と、妊婦さんの内面的な充実感からくる美しさを称えていると受け取っておきましょう。似たような表現に 「色は年増に止めさす」 というのもあります。 ただし、実際には、妊娠前と比べて肌がきれいになる人ばかりではありません。むしろ、肌が敏感になってアトピーが悪化したり、乾燥して湿疹に悩まされたりする例が目立ちます。 この原因は、妊娠によってホルモンのバランスが変わるためです。妊娠中に分泌が増加する黄体ホルモンには、皮脂の分泌を促したり、メラニン色素を増やしてシミを目立たせたりする作用もあるので、肌のトラブルが起こりやすくなります。 この黄体ホルモン、妊娠していない女性でも分泌量が増える時期があります。生理が始まる1週間ほど前から、生理の開始後数日間にわたる期間がこれにあたり、にきびができたり、肌ががさついたりするなどのトラブルの原因になっています。 この他に男性ホルモンにも、皮脂を増やして、にきびを悪化させる作用があります。こう書くと、 「えっ、妊婦さんの話をしてるんじゃないの? なんで男性ホルモンが出てくるの?」 という声が聞こえてきそうですが、実は女性も卵巣と副腎で男性ホルモンを産生しています。量は男性の5分の1弱とはいえ、男性ホルモンに変わりありません。月経の1週間ほど前から月経開始後数日間は、女性ホルモンであるエストロゲンの血中濃度が低下するため、相対的に男性ホルモンが増えて、にきびができやすくなるのです。 このような性ホルモンの働きを逆に利用して、最近、重いにきびの治療に経口避妊薬であるピルを使うようになっています。ピルは開発当初、血栓形成や循環器疾患などの副作用が報告されましたが、その後、安全な低用量ピルが登場しました。 ピルは人工的に妊娠に似た状態を作り出すため、吐き気や不正出血などの副作用が起きることがあります。通常は次第に治まりますが、血栓症、動悸・息切れなどの重い副作用の発生も少ないとはいえ報告されています。 また、35歳以上でタバコを一日に15本以上吸う人や、手術の予定のある人、高血圧の人は低用量ピルを使ってはいけません。個人輸入もできるようですが、自己判断で使うような薬剤ではありません。必ず医師の指導のもとで服用してください。 なお、妊婦さんの肌のトラブルは、通常は出産すると治まりますから、あまり心配しないでください。妊娠中に使える治療薬もあります。 |
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