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人の顔が憶わらないのはなぜですか 人の顔を憶える能力は個人差が大きく、一度見かけただけの人の顔を何人でも、写真のように正確に記憶できる人もいれば、親しい友人ですら髪型が変わったり久しぶりに会ったりすると不安になる人までさまざまです。 カラスは人の顔を憶える、という話を聞いたことはありませんか。有名な研究によると、カラスは15人の顔写真から1人を選び出せるだけでなく、3週間間隔を空けても憶えていたそうです。 人の顔だけではありません。あるカラスの仲間が、自分で隠したエサの場所を1万ヵ所も憶えていたという報告もあります。 これを聞いて、カラスの記憶力はすごい、知能が高いと言う人がいます。しかしこれは言い過ぎですね。というのは、カラスは記憶力が良いのではなく、認知力、すなわち区別する力が高い可能性があるからです。 認知機能の中で、特に顔の認知に関わるものを相貌認知(そうぼうにんち)、この機能が失われている状態を相貌失認(そうぼうしつにん)といいます。 知能 (IQ) との関係については、IQ が低くても認知力がずば抜けている例や、逆に IQ は高いのに一部の認知力が完全に欠損している例が多数報告されていることから、相貌認知と IQには直接的な関係はないと考えられています。 脳の病気や事故で相貌失認が現れることもあれば、先天的に相貌認知が低下していることもあります。 先天性の相貌失認の人は、思春期を過ぎてから症状を自覚することが多いようです。これは、子供の頃は他の人も自分と同じだろうと考えていたのが、成長するにつれて、そうではないと気づくためかもかもしれません。 しかし、人間には、優れた適応能力があります。最近誰かに会ったときのことを思い出してください。人を見分ける際には、顔が最大の情報源なのは確かですが、それ以外にも、髪型や、体つき、声、表情など、手掛かりはいくつもありますね。 相貌失認であっても、顔以外は十分に認知できる場合がほとんどなので、これらの情報を総合すれば、多少の苦労はあっても社会生活を営むことができます。また、人の特徴をメモしたり、簡単な似顔絵を描いたりすることで営業や接客の仕事をこなす人もいます。 このような代償行為は、相貌失認以外の認知障害でも見られます。例えば、場所を見分ける能力に障害がある、いわゆる方向音痴の人でも、目印になる店や看板を記憶しておけば正確に目的地にたどり着けます。 |
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