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プラセンタエキスが放射線に効く? 原子力発電所の事故をきっかけに、放射線被曝の危険性が改めて話題になっていますが、人間のプラセンタ(胎盤)エキスが放射線障害を回復させるという研究報告をご存知でしょうか。 国立遺伝病研究所で行われたネズミを使った実験で明らかになったものです。ネズミに致死量の放射線を照射してから2つのグループに分け、片方のグループだけに人間のプラセンタエキスを注射します。 するとエキスを注射しなかったネズミは17日以内にすべて死亡しましたが、注射したネズミは全個体が200日以上生存しました。 強力な放射線を浴びると死亡するのは、放射線が腸の細胞や骨髄にある血液のもとになる細胞を破壊するからです。この実験でプラセンタエキスを注射したネズミも数日間元気がなくなりましたが、そのあと回復しました。 死後に解剖して調べてみると、消化管や肺に出血が起きてから治った痕跡がありました。破壊された組織が再生したということです。プラセンタエキスの投与は被曝直後に、大量に行うほど有効でした。人間での効果は確認されていませんが、人間でも有効な可能性はあります。 妊娠すると子宮には胎盤が形成され、胎児の生命と成長を支えます。生命の誕生に密接に関わっていることから、胎盤は古代においても「若さの源」として珍重されていました。 20世紀の半ばになって科学的な解明が進み、胎盤には実際に各種必須アミノ酸(人間にとって不可欠だが体内で産生できない成分)やビタミン、ミネラル、そしてさまざまな生理活性物質が豊富に含まれていることがわかっています。 現在、ヒトのプラセンタエキスの注射は肝臓病、更年期障害、乳汁不全症の三つに健康保険が認められています。そして実費での治療にはなりますが、皮膚科や形成外科でもプラセンタ治療を行うところが増えています。 特に皮膚科領域では、アトピー、美白、シワ、にきび、ケロイド痕など、皮膚の症状全般に優れた効果があると主張する専門家が少なくありません。 確かにプラセンタエキスには皮膚の弾力や潤いを保つのに必要なコラーゲン、弾性線維、ヒアルロン酸の産生を促すFGF(線維芽細胞増殖因子)やEGF(上皮増殖因子)などの因子が含まれているので、皮膚の再生を促すことは十分考えられます。 しかしまだ未解明の部分が多いため、安全で有効な人工のプラセンタエキスを大量生産できるようになるには時間がかかりそうです。 一つ気をつけたいのは、プラセンタエキスの注射後は献血ができなくなることです。プラセンタエキスは本物の胎盤から作られているため、輸血などに使う血液製剤と同じ分類になります。牛海綿状脳症(狂牛病)の際に、変異型クロイツフェルト・ヤコブ病というヒトに感染する病気が話題になりましたね。 実際には、プラセンタエキスの使用が原因で病気になったという報告は、国内、海外ともに、これまで一件もありません。しかし、この病気についてまだ完全にはわかっていないことから、念のために献血を制限することになりました。同じプラセンタでも、エキスを含むサプリメントや化粧品、内服薬を使用しただけの人は献血しても構いません。 |
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